テキストマイニングの手法

基幹となる「情報の流れ」を作るー「枯れない情報」である事

テキストマイニングを定着させる上での最初のステップは、まず「顧客の声」を定常的に全社に流通させ、「顧客情報のフロー」を張り巡らす事であり、これが最も困難な課題である。次のステップでは、この情報をベースとして各部門において最新の分析結果を参照しながら、業務の改善活動を自律的に推進する様に働きかける事である。これは最初に「情報のフロー」が出来てしまえば、比較的容易に実現できるものである。この際にどの情報を手始めに採用するかが問題となるが、これまでの経験では「顧客からの苦情・クレーム情報」が、最も判り易く、まずこれを最初の取掛かりとして活動するのが定石となっており、その理由は、以下の通りである。

1) 苦情・クレーム情報は多岐に渡るため、社内の大部分の部門が直接的に関連し、全社活動として進め易い。
2) 苦情・クレームの担当部門は、自己責任としての問題意識を明確に持つため、自らの改善活動として自律的に取り組み易い。
3) 苦情・クレーム情報は枯渇しない。(勿論、苦情のない事が理想ではあるが)
常に新たな問題を提供して、企業活動に緊張感を与え続ける事ができる。

 ここで特に重要なのは3項であり、持続的な活動をごく自然に実現する事がポイントである。これまでの業務改革活動は、ともすれば最初の掛け声だけが大きく、一過性に終わってしまう事が多かったが、これはその活動を継続するためのエネルギー(新たな課題の発掘作業や管理業務等)が、大き過ぎてその負担に耐えられない事が原因となっている。つまり、社長の一声で新たな活動が始まったとしても、それを持続させるためには次々と新たな課題(=情報)が浮かび上がってこなければならず、それに必要な負担や仕掛けについての認識と対策がなければ、その活動はすぐに立ち枯れてしまうのである。実際、こうした点を社員は良く看抜いており、嵐が過ぎ去るのをじっと待つ事になる。

 つまり、持続的な活動とは、日々のルーチン業務として取り組めるレベルの閾値の低いものでなくてはならない。しかも、常に新たな課題が自然と設定される事が重要で、活動目標の設定自体に大きな負担を要するとすれば、それは持続的活動には成り得ないものである。この点で、苦情・クレーム情報に代表される顧客情報は、日々新たな課題をもたらし続ける事により、こんこんとして涌き出る泉の如く「枯渇しない情報フロー」として全社に浸透し続ける事ができ、受注情報や生産情報と同様に、企業活動における基幹情報フローの一つとなるものである。また、第2章で述べた様に、「顧客の信頼」を獲得する活動とは、こうした草の根活動を活性化する以外になく、常に「顧客の声」を意識した日常業務の継続こそが、企業基盤を確固としたものに仕立て上げてゆくのである。

 以上の活動によって、「顧客の声」への迅速な対応を、関連する部門に対して、継続的かつ自然に促す事が可能となり、テキストマイニングを活用した顧客指向経営の基幹フローとその対応体制を構築する事ができる。また、基幹が出来あがれば、枝葉はその内ついてくるのであり、黙っていてもシステムは進化を続けてゆく。つまり、同様の考え方で、営業日報や販促情報等への利用範囲の拡大は誰でも提案・実行できるが、基幹を作るのは確固としたコンセプトの持ち主でなければ、成し遂げる事ができないものである。従って、これまでに実績を上げている先進企業における取り組みでは、経営トップの明確な意思とそれを実現する現場マネージャーの強い信念が不可欠となっている。

 この際に、当然ながら顧客情報を全社で一元管理する事がポイントとなるが、一部の大企業では事業部制や分社化等による独立性がもたらす弊害で、こうした情報の流通や共有化が困難となる場合がある。特に間接販売に完全依存しているために、「顧客の声」を全く収集できない例や、地域のディストリビューターの独立性が強いために、全国規模での情報の一括管理ができない例も散見されており、この点は企業活動における致命的な欠点となる可能性がある。顧客が個客となって、商品・サービスの進化のスピードが問われている状況の中で、こうした進化を推し進める原動力となる「顧客の声」を直接活用できるか否かが、混迷する市場経済を生き抜く上での必須条件となってくるであろう。

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(2019.05.08 公開)

本コラムは、2002年リックテレコム社出版 石井哲著作「テキストマイニング活用法 顧客志向経営を実現する」から引用しています。
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