テキストマイニングの手法

適用拡大と活用の活性化

第1章―5で知識の量産手法について解説したが、テキストマイニングの活用を促進するマネジメントとは、KMそのものである。つまり、文書情報の基本的特性である多義性を最大限に活かして、様々な観点からの分析を試み、その分析結果(=仮説)の正しさについての議論を広く行なうマネジメントが理想となる。その一例として、企業での事例と教育(大学)での事例を紹介する。

1)企業における活用促進

 

企業におけるテキストマイニングの活用パターンは、通常は分析担当者が定期的に分析を行ない、その分析結果をマネージャーから一般担当者までが共有し、必要な対応を取るものである。従って、分析を行なう人数は一部門では数名程度となるのが普通であるが、これを拡大すると共に、視点を変えた分析結果の活用ノウハウを蓄積してゆく事が重要である。

<プロジェクトでの活用>
 マニュアルの記述を改善するプロジェクトでの事例である。通常、マニュアルは製品担当事業所の責任で作成されるため、その記載方法は統一されておらず、マニュアルを読んでも判らないと言った指摘が寄せられていた。このために、全社プロジェクトとして全製品のマニュアルを統一的に見直す事となった。まず、マニュアルの不具合に関する苦情(数万件)を全製品群から抽出し、そのデータに対して、様々な観点から分析を試みた。例えば、マニュアルの記載不備を指摘した内容を分析したり、マニュアルの記述そのものが判らないと言った指摘を分析して、その理由と解決策を探る活動である。プロジェクトの担当者全員が、各々の視点で同一データを分析して、その結果を比較し合う事で、多くの解決案を効率的に抽出できた。単に、改善の視点について議論するのではなく、実データの分析結果を基に、各担当者の意見を比較した事で、中身のある検討が短時間で実現できた点が重要であったとの評価である。結果としては、マニュアルの見出し改善や用語の統一、類似する記述の統一等を盛り込んだ改善ガイドラインを作成し、担当部門に徹底を図っている。

<視点を変えた分析結果の活用>
①クレーム分析の結果を、商品開発の評価に用いた事例である。開発した商品の市場導入3ヶ月以内のクレーム発生状況を、過去の同等製品と比較することによって、製品の品質が向上したのか否かを評価するものである。これによって、過去の反省が生かされているのか否かが一目瞭然となった。
②製薬業界でのMR(Medical Representative)の日報に記載されている活動内容を分析した結果、特定の薬品に関しては、薬効に関するスペシャリストとしての営業活動の他に、医師との人間的関係の強化活動(学会への随行、接待、研究会立上げ等)がより重要である事が判明した。そのきっかけは、優秀なMR(複数)の活動比率に特徴があった事による。この結果に基づき、推奨行動パターンを分析し、経験の浅いMRへの指導に役立てている。

上記の方法を含めて、実務の現場では様々な工夫と新しい試みがなされており、そこに共通するのはテキストマイニングが提供する新しい情報が、新しい発想を引き出している点である。これまでは、活用できなかった大量のテキスト情報を分析する事で、今までにない切り口の情報が得られ、それが新しい発想を誘引しているものと推定される。
 しかも、その情報は「顧客の声」である事から、実務担当者にとっても、その改善活動が顧客の期待にダイレクトに応えるものである事が実感できる点が、非常に重要なポイントとなる。さらに、この活動の波及効果として、顧客も自分が大事にされているとの実感を持つ事につながってゆく。この意味で、顧客志向経営とテキストマイニングがもたらす活性化状況は、次の4点となる。

<顧客にとって>
自分が、その企業から大事にされていると実感できる。
<従業員にとって>
①顧客の具体的な要望に、直接応えていると実感できる。
②社員全員が一丸となって、顧客の期待に応えていると実感できる。
③顧客からの反応(=評価)を基準として、より高い価値を生み出し 続けていると実感できる。

2)教育分野での活用

意外と思われるかも知れないが、既に教育分野においてもテキストマイニングの活用は始まっている。その事例については、第6章にて紹介するが、ここではテキストマイニングを用いた教育支援システムにより、学生の自主的な学習意欲が増し、教師と学生とのコミュニケーション向上に貢献した事例を紹介する。(金沢学院大学、経営学部、阿手助教授:参考文献)

<Web環境での教育支援システム:VextClass>
 同システムのポイントは、テキストマイニング技術を用いて、学生の理解度を把握するに必要な記述式問題の評価支援システムを開発した事であり、これを用いて学習の進展状況をタイムリーに把握すると共に、理解度に基づいた双方向指導や参加型の講義方式を実現して、教員の負担軽減ときめこまかな学習指導の両立を実現している。勿論、最終的な評価は教師が行うのであるが、同支援システムはそのための1次スクリーニングとしての機能を提供し、採点作業の大幅な負荷軽減を実現している。
 また、基本となる記述問題の評価支援機能と共に、学習の進展に即したガイダンス機能及びサイバーゼミやグループ学習等の自主的学習環境を実現しており、Web環境を用いて、時間と場所にとらわれない効率的な学習環境を提供している。既に、複数の大学で実稼動しているが、当初は経済学部での運用から始まり、現在は他学部への適用拡大が進んでいる。

<サイバーゼミを応用した自由参加型の補習の効果>
 自由参加での補習を実施した結果、顕著な学習意欲の向上が見られ、教員とのコミュニケーションも活発化して、学期末での成績は全員がトップクラスになった。 学生の反応は次の通りであるが、教員側は、従来になく教官への信頼感が増したとの評価である。

①採点された結果がすぐにわかるので、勉強に役立った。

②手軽にわからないところを聞けるので良かった。

③一方通行で聞くだけでなく、会話形式にできてよい。

④以前より、興味がわいて、学力もアップした気がする。


 上記のシステムは、1対多での効率的な対応を実現するものであり、タイムリーで肌目細かい対応が実現できるものである。特に最近の教育ではコミュニケーションを重要視する事から、大学だけでなく企業を含めた教育分野全般での活用が進んでいる。

参考文献:長坂悦敬、阿手雅博、記述問題評価を考慮した教育支援情報システムによるInteractive Education 、2000-7 私情協 第8回情報教育研究発表会

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(2019.05.08 公開)

本コラムは、2002年リックテレコム社出版 石井哲著作「テキストマイニング活用法 顧客志向経営を実現する」から引用しています。
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