テキストマイニングの手法

顧客の声が経営を変える

 「顧客の声」に耳を傾けるとは、政治の世界で「民の声」を遵守する事とほとんど同義であり、スローガンとしては誰もが認めるが、実行の極めて困難な目標のひとつである。過去の大部分の為政者がスタート時の初心を忘れて独善的になる様に、企業活動においても起業時の謙虚さを持続することは難しい。しかも、企業に対して公然と文句を言う人は「50人に1人」(コカ・コーラ社の調査:注2参照)であり、ほとんどの人は不満を感じていても連絡せずに、他のブランドに乗り換えてしまうのである。これは米国での調査結果なので、日本であれば、さらに少なくなるであろう。

注2:コカ・コーラ社の調査結果 「口コミ効果の大きさ」
   (1972年、リサーチ専門会社:TARP社に依頼)
1)何らかの不具合があった時、企業に連絡を取る人は、50人に1人。
2)ほとんどの人は不満を感じても連絡を取らず、その内20%の人は他のブランドに乗り換えてしまう。
3)1人の消費者が満足すれば、5人から6人にその事を伝えるのに対して、不満に思った場合は
   9人から10人に伝える。
4)口コミでは、満足より不満の方が伝わり易い。

 つまり、「氷山の一角」でしかない「顧客の声」は非常に重要なシグナルであり、実際にはその数十倍~数百倍にものぼる潜在的な不満を代表しているのであるから、「顧客重視」を標榜する企業サイドとしては当然迅速かつ真剣な対応をすべきであるにも拘わらず、実際の行動に結びつく事は少なかった。その理由は以下の通りである。

① 膨大な情報の中から少数意見を迅速かつ的確に捉える手法がなく、実現できなかった。
② 近年、クレーマーと呼ばれるマニアが出没して、その対応に企業は苦慮しており、
  善良な顧客の少数意見とクレーマーの意見との区分が困難であった。

 この原因は、従来の「顧客の声」対応が担当者の主観に基づくサンプリング方式であった事に起因しており、こうしたやり方では往々にして、“声の大きい顧客”や“声の大きいマネージャー”の意見が優先されて、主要な顧客の意見であると報告されてしまいがちであり、膨大な情報である「顧客の声」の全体像を捉え切れずに誤った対応を取る事にもなりかねない。しかも、このサンプリング方式の致命的な欠点は、苦情・不具合に対する対策効果があったのか否かが全く把握できない点にあったが、これまでこうした欠点に対する認識はほとんどなく、対策も講じられてこなかった。
 このために、「少数意見ではあるが企業に対する真摯な反応」を的確に捉えて対応する事は、「言うは易く、行うは難し」である反面、顧客対応を一歩間違えば企業理念の根幹に関わる重大な事態を招く状況となる可能性があり、企業としては大きなジレンマに陥ってしまうことになる。その典型的な事例が、99年7月に起きた東芝事件(注3)である。この事件を契機として、顧客対応の重要性が再認識されコールセンタの機能強化が推進されたが、最も重要な点はWeb社会においては「信頼の失墜」が極めて短時間かつ広範囲に伝播し、その回復には莫大な努力を要する事が誰の目にも明白となった事である。こうした「顧客軽視」の姿勢に対する消費者の反応は極めて厳しく、内容的には多少異なるものの00年7月の雪印事件、02年1月の雪印食品事件では、企業の経営基盤を根底から破壊するまでに至っており、まさに「顧客の声が、経営を変える」事が実践されている。

注3:東芝事件(99年7月)
ビデオデッキの不具合についての問合せに対して、クレーマーまがいの対応をされた会社員が、その対応内容を録音しWebで公開した事で、東芝側の理不尽な対応が明るみに出た事件。当初、東芝は会社員を訴えたがあまりの反響の大きさに告訴を取り下げ、謝罪するに至った。この事件の本質は、報道された後に東芝が取った官僚的な対応に対する消費者の反発であり、企業体質として顧客軽視が染み付いていると判断された事によるものである。また、会社員のホームページは、1ヵ月で500万アクセスを超えたが、新聞報道される以前に既に150万アクセスがあり、ネットワーク社会での口コミ効果の大きさを印象付ける結果となった。

以上の状況を踏まえて、前述の課題を解決するものが、これから詳述するテキストマイニングであるが、これを実現可能としたポイントは次の2点である。

① ここ2~3年で急速にテキストマイニング技術が進展した事により、少数意見の抽出とその対応方策の検討を効率的に支援する事が可能となった。

② コールセンタ機能が強化されて企業の顧客対応窓口として一本化されたため、問合せ情報を一元管理する事が可能となり、サンプリングではなく全データを上記のテキストマイニングで分析する事で、全体像を把握する事が可能となり、クレーマーの意見や一般顧客の少数意見との区別も容易になった。

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(2019.05.07 公開)

本コラムは、2002年リックテレコム社出版 石井哲著作「テキストマイニング活用法 顧客志向経営を実現する」から引用しています。
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